★ Ryu の 目・Ⅱ☆ no.146

早、如月。
冷え込む日々が続いています。
白州では、昨年の大雪と違って、毎週のごとく、積雪5〜10cmの雪が降ります。

お知らせ。
・「今月の風」のコーナーはいつもと予定を変えて二編掲載させていただきました。
・今月より〈Ryu ギャラリー〉として制作した作品を添付写真で紹介させていただきます。

では《Ryuの目・Ⅱ−no.146》をお楽しみ下さい。


◆今月の風 :今月は二編です。
 
その1:話題の提供は佐貫惠吉さんです。

『ペンギンが教えてくれた物理のはなし』 渡辺佑基著      

正月にとても面白い本を読んだので紹介します。この本の著者は、東京立川にある国立極地研究所の研究員で農学博士。「バイオロギング」という手法を用いて、ペンギン、アザラシ、クジラ、アホウドリ、マグロなどの野生生物の生態生理を研究しています。
「地球全体がぼくらの庭だ!」
空撮や潜水撮影を駆使した「ネイチャーもの」、クラゲだけ集めた水族館などなど、最近の流行りは、確かにお金をかけていて迫力もあるけど、ちょっと違うんじゃないの?と思っていました。この本は、動物たちの驚くべき地球規模の大スケールの移動を知ろうということを目的にしています。
そうなんです。人間が主人公のような顔をして面白い「見世物」を工夫しているけど、実は、この地球は動物にとっては自分の庭なんだ、調べなければわからないことは沢山ある、ということなんです。
「バイオロギング」という言葉を知っている人は少ないと思います。これは、野生生物の生態生理研究のために、体温、気温、速度、水中深度、位置情報などのデータセンサーとメモリーが組み込まれた装置を動物に取り付け、ログ(記録)する手法です。これまでは鳥や水中生物に標識を付けて放し、大まかな動態を知ることは可能でしたが詳細は不明でした。
近年このバイオロギングを用いて明らかにされた野生動物の行動には次のような例があります。
なんと
アホウドリは46日間で地球を一周する。
●ウエッデルアザラシは一時間近く息を止められる。
クロマグロは太平洋の端から端まで横断し、また戻ってくる。
●グンカンドリは三日三晩着地することなくふわふわと舞い続ける。
マッコウクジラは水深2,000メートルの深海まで潜ることがある、
などなど。
データを蓄積し、それを解析し、さらに想像力を駆使して次の難問に挑む。
この科学研究の基本的手順から見て、近年のデジタル技術のめざましい発達は過去の手法では知り得なかった多くの事実を明らかにしています。肉眼的「観察」は、目の届かない水中や大空の彼方では無意味になる。人間が観ていない時、どこで何をしているのか?これまでのような標識だけではわからないことを知りたいのです。どれだけ深くあるいは高く、どれだけ速くあるいは遅く、またどこまで遠く動いているのか、を調べるのです。
「マグロは時速80kmで泳ぐの?」
子供向けの図鑑には、マグロは時速80キロ、カジキは100キロ以上、カツオも60キロ、と書いてあるらしい。このマグロの遊泳速度の測定方法は、いまなら呆れるほど乱暴なものだったようです。マグロを釣って、かかったところでリールをニュートラルにする。糸が繰り出されていくので、それで測った、というのです。
釣られて暴れるマグロの行動を本来のマグロの行動と見なすことはできない、というのが現在の科学の常識です。バイオロギングの手法で明らかになったマグロの巡航速度は時速8キロだとか。これは平均速度で、最大速度のデータは乏しい。平均巡航速度の3-4倍が最大速度とされるから時速30キロがせいぜいのようです。80キロだと最新の魚雷の速度に匹敵する。まさに「そんなに急いでどこへ行く」ですね。
話は進化をどう見るかにも及びます。……………鳥類のペンギンだけでなく、哺乳類のアザラシやクジラ、爬虫類のウミガメなどが、魚類という共通の祖先から長い時間を経て、水中でのエラ呼吸から肺呼吸や乾燥への耐性を進化させ陸上に進出していった、にもかかわらずせっかく手に入れた肺呼吸のメリットをふいにして、むしろそれが致命的なデメリットになる海の中の生活に還っていった。この道理に合わない非効率、行き当たりばったりさ。それもこれも、動物たちにとってほとんど唯一の達成目標が、いかにして今を生き延びて多くの遺伝子を次世代に残すか、それだけだからである。祖先がどんな姿かたちで何をしていたかなんてどうでもいいのだ……………………。このような行き当たりばったりの進化にこそ動物研究の面白さが凝縮されている、と著者は言います、「物理の法則で考えるとどうなるの?」
そしてバイオロギングという新しい観測技術を用い、物理学の基本法則にふまえてこの面白さを語るのです。ここに著者のユニークさがあります。例えばこうです。(引用が少し長くなるが我慢して読んでください)…………………(グンカンドリが)上昇気流に乗って円を描くとき、鳥の体には外向きの遠心力がのしかかる。遠心力が強すぎると、カーブで曲がりきれない車のように鳥の体も円の外にはじき出されてしまう。遠心力は「(速度)の二乗÷(回転半径)」に比例する。外にはじき出されないよう遠心力を低く保つためには、分子である速度を下げるか、分母である回転半径を増やすか、どちらかしかない。大きな翼のおかげで速度を下げることができれば、回転半径は増やさないで済む。つまり小回りができるようになる。しかも遠心力に対して速度は二乗で効く。ということは、速度をほんの少しでも下げることができれば、回転半径はずっと小さくて済む。なお、翼に生じる揚力を示す「(空気の密度)×(翼の面積)×(速度)の二乗」の式からすれば、飛行速度を上げたいときには翼の面積を小さくすればよいことがわかる。(逆に、翼の面積が大きければ、それだけ飛行速度を下げることができる)鳥の翼は伸縮自在の可変翼だから、そんなことは朝飯前。グンカンドリも猛禽類ハヤブサも、獲物めがけて急降下するときは翼を半ば折りたたんで面積を減らす。意外なことに、鳥の普段の生活で重宝するのは遅く飛べる能力である。遅く飛べる鳥は速くも飛べるが、速く飛べる鳥が遅く飛べるとは限らない……………………。
これから先は実際に本を読んでください。情けない失敗談もあれば、失敗を意外な発想で切り抜け大きく前進した話もでてきます。フランス領の観測基地では食事がフルコースでチーズの時間もある、コックの他にパン焼き職人兼パティシエまで連れてきている、という挿話もあります。
何より素晴らしいのは、著者が研究生活を思い切り楽しんでいるのが行間に溢れていることです。読んでいて、たとえ理解不十分なところが出てきても、読み直して何とか先に進んで著者の楽しみを共有したい、と思わせる希な珍しい本なのです。                                  
河出書房新社刊「河出ブックス」070 定価1,400円(本体) 
昨年度(2014)毎日出版文化賞(自然科学部門)受賞
2015.2 佐貫惠吉




その2:話題の提供は岸本雄二さんです。

−SIS (イスラム国) 事件と常識的判断−

今朝、日本人ジャーナリストの後藤さんがISISによって殺害された、と言う日本のニュースをアメリカ、サウスカロライナ州でキャッチした。直ぐにCNNニュースに回して見ると、湯川さんに次ぐ2人目の日本人が断首された、と報道していた。(殺害killedと断首 beheadedとでは印象がまるで違う)その後の日本からのニュースを総合すると、「このような卑劣極まりない蛮行は絶対に許せない。毅然とした態度で対処する」となる。許せなければどうするのか、そしてどのようにして対処するのかについては「国際社会と連携して行う」といっている。要するに外国にオンブにダッコである。安部首相も菅官房長官も他の政治家も、更に遺族も含めて、大凡そこのように言っていた。
更に、二百万人近い海外在住の日本人の安全確保に力を入れる、と安部首相は付加えていた。その方法には言及しなかった。
以上の日本の対応は現時点で適切であるかも知れないが、レトリックとかヴァーベッジという言葉で表現されてしまうような気がする。要するに、明確な行動が伴う解決策無しに、言葉だけの対応だ。NHK日曜討論会での各党首の発言も大同小異であったと聞いた。或る党首は、「このような蛮行は絶対に許せない。自衛隊をシリアに派遣するなど絶対にしてはならない。」と言っていた、と言う。レトリックだけではなしに、支離滅裂ですらあり、論理の形さえ成していない。
先ず、アルカイダの直系であるISIS「イスラム国」は「国」ではなく大テロ集団である、と理解しなければならない。大テロ集団を撲滅することは、大掛かりなギャング団を大掛かりな警察集団が撲滅するのと似ている。国家間の戦争ではなく、大ギャング組織撲滅作戦であり大掛かりな刑事事件である。もう一度繰り返すが、これは国家間の戦争ではない。ISISが日本人を殺害のターゲットにする、と表明したのに対して、菅官房長官は、ISILによる挑発である、と言っていた。日本の警察組織又は自衛組織がアルカイダの流れを汲む国際ヤクザ組織に挑発されて受けて立つのは当然で、自衛行為であり防衛行為である。
自衛隊とは正にそのために存在するのではないかと私は考える。理論的には、戦争でも無く日本国憲法とも接触せずに自衛隊を本来の目的に沿って使える行為である、と考える。このような理解の仕方は、今回の事件を素直に観察するなら、当然の帰結ではないだろうか。スケールが大きく多くの国が関係しているので、把握しにくい点もあるが、規模の大きさに惑わされてはならない。

日本政府が日本国憲法の精神にのっとり国民の生命の安全を第一の義務(仕事)と考えるなら、以上のことを現行の法律に接触しない範囲で行動に移せると考える。相手が大掛かりなので、軍艦や戦闘機を使う場合もあるかも知れない。自国民の安全と自由の確保を目的とした戦いとなり多少の犠牲は覚悟しなければならないのは当然である。イラク戦争の場合のように「生命に危険を及ぼさず、武器も使わないですむ安全な場所を確保して、警察組織又は自衛組織を派遣しよう」などという国際的非国民のような子供じみた方法や意見は恥ずかしくて聞く耐えない。意見があるなら、国際的にも通用する大人の責任ある意見を聞かせてもらいたい。
以上は今朝の20キロ長距離ランニング中に考えたことである。寒かったが走ってよかった。
2015年2月1日 岸本雄二(クレムソン在住)


◆今月の隆眼−古磯隆生
http://www.jade.dti.ne.jp/~vivant
http://www.architect-w.com/data/15365/
   Ryuの目ライブラリー:http://d.hatena.ne.jp/vivant/


−移住生活・その23−

昨秋の故郷初個展が終わり、その後の諸々の処理もやっと終わり、久し振りに“日常”が戻ってきました。2月の二つの美術展に向けての作品作りも大体予定通りに進み、今は、毎日眺めながら最終チェックに入っています。今月は「移住生活」の話をまた開始しましょう。
この時期、畑仕事は休みの期間ですが、それでも越冬する野菜(タマネギ、ニンニク、エシャロット、ネギ)のことは気になるところです。特に、タマネギは難しく、これまで二度トライしましたが、なかなか上手く出来ません。せいぜい5cm位の玉にしかなりません。今年はどんなサイズの玉ネギが出来るのでしょうか。楽しみと不安。収穫は5月の連休を過ぎたあたりです。
昨年の12月に、昨秋できた大根を保存のため畑の土中に埋めました。昨シーズンもそのように保存し、必要なときに掘り出して食していました。特に問題はなく、新鮮みもある程度キープされ、保存方法の一つです。今シーズンもその繰り返しをと考え、土中に埋めました。ですが、天候が不安定な一年でしたのでいつもとは事情が違っていました。白州でも例年に比べ、早々と急に寒くなる日が続き、畑に植えたままの大根の地上に出てる部分が凍るという事態が起きていました。12月過ぎでのこのようなことは例年では考えられません。凍った大根を土中に埋めておいても特に問題になることは無いのではないか、まあやってみようと30本程(抜き取った大根の半分ほどは凍っていました)を埋めました。先日、一月半ぶりに掘り起こし、何本か掘り出してみました。驚きました。凍ってた部分はすっかり跡形もなく消えて、無くなってしまっているではありませんか。残滓があるではなく、微生物が全て分解して土に帰したのでしょうか。凍っていた部分の形そのままそっくり消えていました。葉の茎の部分は残滓が出てきました。表土は10cm程までは凍っていましたが、その下は軟らかい土のままです。微生物は地中で活動しています。
それにしても驚きました。自然な環境の中で、過酷であろうと無かろうと様々な生物が活動している。目に見える現象もあれば見えない現象もある。でも活動している。何か、自然の持つ奥行きを見せつけられた思いです。


◆今月の山中事情106回−榎本久・宇ぜん亭主

−追憶−

ふとある青年のことを想い出した。それは飯能の店でのことである。
夏の盛りに開店した店だが、数日が経ち少し落ち着いてきた頃の昼前、一服をしようとやおら椅子に座ろうと思ったら、縁側越しに上半身裸の青年が、異様な目つきをし震えながら立っている。そして「メシを喰わしてくれ」と言うのだが、どうも尋常ではない。とは言え、お客だから無下には断れない。見れば素足だ。「まだごはんが炊けていないので、しばらく時間がかかるがいいか?」とあえて断るかのように聞いたのだが「待つ」と言う。
この辺りのことは全く未知だ。その青年とてどこの人なのか解る訳がない。息せき切っているので、訝しげにいたら、続いて「親を殺して来た」と衝動的な言葉をついた。これはとんでもない者が現れたものだと思いながらも、まず、落ち着かせようと「水飲むか?」と聞いた。目でうなずいた。カウンター内だったので彼との距離は保っていた。とばっちりを受けるのではないかと内心平静ではいられなかったが、我ながら不思議なくらい冷静に対処していた。「オレのでよかったら納豆メシがあるから喰うか?」と聞いてみた。小首を振ったので出してあげたが少しも箸をつけようとしない。そうとう動揺している。固形物など、喉が通らないようだ。しきりに水を飲む。刑事ドラマの劇中を思った。相手を刺激しないように、犯人側の言い分を聞くシーンだ。私には解らないこの辺のことや、学校のことをぽつりぽつりと話しはじめた。的確に私は相槌は打てないが、目をそらさず聞いてあげた。いつしか納豆メシを食べ始めていた。よくよく観察したら、刃傷沙汰ではないようだ。返り血がないからだ。いつの間にか私は刑事のごとく振る舞っていた。「じゃここでこうしていても仕方ないから警察に行く?」と聞いたら、頭を振り「連れていってくれますか?」と言う。Tシャツを貸し、スリッパをはかせて車に乗せた。○○警察には四十分以上かかるが、店のことなどはその時頭になかった。ところがすぐ先に交番があることに気づいた。彼に聞いた。「交番でいいか?」。「ウン」と返事があった。
交番に入った瞬間、青年はハッとした。私は私で警察にワケを話そうとしたのだが、初老の夫婦がいて、私と青年の顔を見るなり「○○○お前は!」と怒鳴った。なんと殺したはずの親が捜索願をしに来ていたのだ。どうやら彼は精神を病んでいたようだ。今日のように家で暴れて飛び出し、その度に捜索を願っていたのかも知れない。
しかし私が聞いた限りではそんな風には見えなかった。両親に私は言った「息子さんを叱らないで下さい。よく話を聞けば、よい息子さんではないですか」と。お父さんは困ったようにうなずいていた。その後身柄を引き渡し帰宅したが、どうもすっきりしない夏の日だったことを想い出す。それから十年が経った。彼は結局自死したことをある人から聞いた。まことに悲しいことである。

宇ぜんホームページ
  http://www012.upp.so-net.ne.jp/mtd/uzen/


◆Ryu ギャラリー

 今回は、先日連絡させていただいた二つの展覧会への出品作品を紹介(添付)します。

  WORK TEN
   ・「落」…112cm×162cm(P100号)
   ・「霧の詩」…21cm×29.7cm


 
  第6回行動美術TOKYO展
   ・「大地の目覚め/昇」…162cm×194cm(F130号)


★「はてなダイアリー」というブログでRyuの目の掲載をしています。  
  これまで発信したものは全て掲載しています。
  私のホームページにリンクしておりますのでご覧下さい。
    http://www.jade.dti.ne.jp/~vivant/