★ Ryu の 目・Ⅱ☆ no.93

秋の気配はするもののまだまだ厳しい残暑です。
ご自愛下さい。
夏好きの私ですが、今年、生まれて初めて(?)夏ばてしました。

さて民主党の選挙はどの様な結末になるのでしょうか?
今ひとつ納得できない選挙です。

では《Ryuの目・Ⅱ−no.93》をお楽しみ下さい。


◆今月の風 : 話題の提供は岸本雄二さんです。

−か(彼)はたれ(誰)文化−

抽象的な思想や、具体的ではあるが情緒のある雰囲気を上手に表現できる言葉は素晴らしい。日本語はそれを可能にしてくれる言語の一つである。「かはたれどき」はそのような情景を表すのに絶妙は言い回しである。夕方、薄暗くなって、光景がぼやけて、誰かいるらしいが、夕もやの向こうにある記憶のように、はっきりしないし、むしろそれを弄んでいれるようだ。私にはこの「かはたれどき」という表現は、そこまで言ってくれていると感じる。むしろそこにいるのが思いがけない人や考えであることを期待するかのようだ。

ある種の文学や詩情溢れる歌詞のように、具体的ではあるが含みのある、そして読み手や聞き手の想像を刺激してやまない、そういう日本語が時として非常に難解な言葉に豹変することがある。それは焦点が定まらず的確さを欠く場合である。商取引の契約や法律の文章などには、それなりの書き方があるので、一応心配はないはずだが、会議の議事録などではしばしば見受けられる。この発言は誰が言ったのか、そしてその内容は誰の責任で何を意図して述べられたのか、という次の行動を示唆する(又はまったくしない)内容が書かれている場合である。
日本語は主語を習慣的に省いてしゃべる場合が多いが、意図的に省く場合もある。「私たち(我々)としては」や「一般的に」など、すでに少し抽象的になりつつあるが、さらにこれを省いてしまうと、誰が誰の責任で、どういう意図で発言したのか分からなくなる。前後関係から考察してもはっきりしない場合がある。誰が発言したのかははっきりしているのだが。日本の社会のなかでは、それが誰の意見なのか分からない方がよい場合が多々ある。それはそれでもよい。だが、これが国際会議の場で起きたらどうしたらよいのであろうか。こういう表現(意見ではない)を英語の議事録にするのは、大変に苦労する。

私はいま、ある建築家について書かれた英文の本を翻訳している。建築家の思想的な意見や実際の建築についての記述は、誤解なく訳せる。しかしその建物が思想通りにことが進まず、どちらかといえば不満を残したまま建設された場合に問題になる。建築家や施主の期待感、社会的文化的環境に関する記述、さらに著者の意見を交えて述べられると、少しまどろっこしすぎて、日本語ならもっと簡単に、しかも的確(?)に抽象的な表現でいえるのに、とつい思ってしまう。
日本の社会では、「はっきりすると角が立つ」ことがよくあるので、うやむやにしておこう、という場合が多い。「君、そんなに主張して責任取れるのかい」といえば「脅し文句」になるが、英語では責任の取れないことはしません、といって責任の取れる立場を誇りに感じているようだ。これなど日本の「かわたれ無責任方式」といえるかもしれない。

いま仮に、日本語を「かはたれ言語」呼んでおく。さればその言語を生んだ文化は「かはたれ文化」になり、短歌や和歌は「かはたれ詩」、精神性を重んずる剣道、柔道、書道、華道、茶道などは「かはたれスポーツ」、「かはたれ道」などといえてくる。英語はときとして白黒をはっきりっさせ過ぎる。しかし感情表現を意図して発達したように思える「かはたれ言語」の日本語は白黒の中間を行く「利休ねずみ」である。利休の粋の利いた茶道、陶芸、禅宗を研究するなら、「かはたれ言語」の真髄に迫れるかもしれない。そう、日本の「かわたれ文化」は粋の利いた「粋文化」であり想像力を逞しくしてくれる。

2010年2月7日  クレムソンにて
岸本雄二



◆今月の隆眼−古磯隆生

−住処探し・その12−

設計には半年余り(通常そのくらいかけます)をかけることになりました。
検討事項は、建物の外観から内部空間に至るまで様々あります。自然に囲まれた環境で“外に開いた空間”を前提に、その建築形態のあり方、建築の色彩、地場の建築材(木材)の活用、シンプルな生活スタイルを包み込む内部空間のあり方、コストを抑えるための様々な工夫、等々です。
北に八ヶ岳、南西から南にかけて甲斐駒ヶ岳鳳凰三山南アルプスを望む環境にあっては、そこに建つ建物は大らかでシンプルな形態がいいだろうと考え、4間×8間の長方形の平面形状に片流れの屋根を架ける形態を原形とし、それに建物内外を関係づける仕掛けとして幅1.5間、長さ8間のデッキテラスを設けることにし、そのデッキテラスに面して大きな開口部を設けることにしました。建物の色は、樹木の中に溶け込み、佇まうイメージの色として黒を基調とすることにしました。これが基本的な建物全体のイメージで、この基本形態にアプローチのしつらえや浴室などが付加されることになります。

内部空間の方針としては、シンプルでコンパクトな生活の場として、ワンルームの様な空間を想定し、必要に応じて最小限の間仕切りを設けることにしました。全体的な空間の連続性と一体性を確保することに主眼が置かれています。その中心的な空間が居間・食堂・台所を一体とした吹き抜けの空間で、2階を含め、全てがこの空間に関連づけられています。
以上が建築内外の基本的な考え方です。

参考までに、屋根と外壁は防食性が高く、メンテナンス上もメリットのあるアルミニウム−亜鉛合金メッキ鋼板を使用することとし、構造材や内部天井・壁の仕上げ材として地場の木材を使用する事にしました。厳しい寒さが予想される冬対策としては、断熱材はしっかり入れるとして、設備的には床暖房とストーブがメインになりますが、冬の日射を出来るだけ部屋の内部に確保するため窓の高さや庇の出寸法を調整しました。日溜まりは暖房エネルギーの節約にも有効です。
コスト対策としては、形態をシンプルにし、建物全体のヴォリュームを押さえること、平面形状に原則正方形を使用すること、地場の材料を使用し、間仕切りは必要最小限にとどめる等々で、大工さんの手間を少なくすることと仕上げ面積をを少なくすることに配慮しました。
少し細かい話になりますが、キッチンユニットを不合理と言われる正方形にしてみました。これは複数での使用と広い調理台を確保するためで、流しとガスレンジを対面させました。これは意外にも使い易く、今後、他の計画でも使えそうです。
つづく


◆今月の山中事情53回−榎本久(飯能・宇ぜん亭主)

平成十八年三月、私は角川春樹主宰の俳句結社「河」に入会した。平成二十一年四月退会する迄二百十五句を投句し、九十五句が入選し活字になった。今回は作句した当時のことを想い出しながら、その作品の本意をご披露させていただきます。

「春の田で日と月競うゴッホよ描け」
日が沈む頃月が出て来た春の天空。ふと空を仰いでいた。そこでは、太陽と月が対峙して、その覇と美っを競っている。瞬間、ゴッホの顔が浮かび「ゴッホさんあなたならこの見事な情景を描ける筈だ」と私はさけんでいた。

「菜の花や生き急がずに生きている」
菜の花の寿命を別段気づかずにいたが、料理の一品にされるなら若くなければいけない。食べる目的ではない菜の花はそれで救われ、季節を通り越して咲き続けている。

「人よりも狡き者なし鵜の泪」
やっと見つけた鮎を、鵜はそれこそよろこび勇んで丸飲みしたのに鵜匠にかかっては、笑いの止まらないこと。人間の狡猾さと洞察力が鵜にとっては口惜し涙。

「七夕やこらえきれない疼きあり」
疼きをどうとらえるか。私の場合、七夕と言う古来からのロマンチックな行事が、比較的雨に見舞われることが多かった(今年もそうだった)。子供達の小さかった頃を想い出すと、ほとんどかまってあげられなかった。今になってそういう行事は大切だったなあと、心の疼きになっている。こらえきれない男女間の疼きはどうだったか……。なかったような気がする。

「にが瓜や口いっぱいの過去があり」
大好きな食べものだが最初は閉口した。にがい過去を形容するのに最適のアイテムか?誰にでもにがい過去はある筈だが、口いっぱいの過去など想い出せない。この句は成り行きで作ったのだ。

「秋茄子(なすび)種はらまして生きている」
植えられぱなしの茄子。畑には、もう御用ずみの様に点々と割れかけた茄子が憐に立っている。見れば、種まで出ているのに誰も収穫してくれない。まるで死んだように生きている。

「競いつつ妬みつつ咲く秋桜(あきざくら)」
擬人化した句。私は深紅のコスモスが大好きだ。スッと立つ姿は何とも言えない風情だ。しかし人間の眼(私の眼)は邪(よこしま)だ。コスモス同士はきっと思うことを口をつぐんで私を見ているのだ…と。

「賛美歌も念仏も聴こゆ冬の山」
ひとり山中に棲んでいると、耳があらゆる音に反応する。風の吹き具合で音色が違うのはあたり前だ。風があの木に念仏のように吹きつけた。賛美歌のように荘厳な歌にも聴える。

「湯たんぽのタポンと温き(ぬくき)音がする」
ストーブ生活をしている。経済重視の視点で湯たんぽを使う。二個で十分足りる。毎日の取替えはめんどうだが、タポンと発する音がたまらない。

「日脚(ひあし)伸ぶありし日の私鞍馬天狗
昭和三十年代嵐寛十郎扮する「鞍馬天狗」なるヒーローが銀幕を躍っていた。幕末の動乱期、新撰組と対峙するその姿に、その意味も定かでなかった少年達の遊びだった。学校から帰ればすぐ「鞍馬天狗ごっこ」を如実に物語るのは、写真家土門挙の作品の一枚に残る。

 宇ぜんホームページ
  http://www012.upp.so-net.ne.jp/mtd/uzen/