★ Ryu の目 ・Ⅱ☆ no.78

各地で梅雨入り宣言が出されています。
蒸し暑く、鬱陶しい季節の到来ですが、一方では、雨上がりの風景が楽しめる時期でもあります。
それぞれの梅雨の過ごし方の話題を頂ければと思います。

では《 Ryuの目・Ⅱ no.78》をお楽しみ下さい。


◆今月の風 : 話題の提供は菅井研治さんです。

−ニュー ドライビング スタイル−

クルマの宣伝文句に「発進スタートから400メートルに達するのに何秒かかるか・・・」というのが大変重要なセールスポイントとなる、そんな時代がついこの間まであったように記憶している。しかし今はというと、「1リットルのガソリンでどれだけの距離を走れるか」いわゆる燃費というのがテレビのコマーシャルの中でもかなり重要な数字になっている。
ハイブリッドカーが登場して以降、その傾向は顕著で最近まで、5キロ10キロメートルといっていたものが、いまや、30キロ、38キロと、1?のガソリンで走ることのできる距離は信じられない数字になっている。

しかしここへきて今度はまったく違った新しい数字が出現してきた。ガソリンをまったく使わずに走るものだから、今までのような燃費を競ったりするのではなく一度の充電でどのくらい遠くまで行けるか、すなわち航続距離とでも言おうか100キロだの160キロだのとそんな数字を競い始めた。
そして久々に復活したのが、最高速度。
一応、日本の国内では100キロ以上スピードは出してはいけないことにはなってはいるが、その新型は130キロのスピードが出せると公表されている。そう、EV,すなわち電気自動車の時代が始まったのだ。三菱自動車の新型EVは、最新のリチウムイオン電池を積んで一度の充電で160キロメートル先まで出かけることができるという。実用性から考えれば多くのユーザーを満足させる性能だ。(容量が大きいリチウムイオンバッテリー搭載の新世代EVの量産は世界初)
同時期に発表されたスバルのEVは、90キロメートル前後走れると言う。因みに、今年の12月頃発表の、トヨタの充電の出来るハイブリッドカー(プラグインハイブリッド)は現時点(テスト中)で10数キロ、最終的には20〜30キロメートル、いやもっと高い目標を掲げているのか不明であるが、大変興味深い新世代カーになるであろう。
しかし、今まで私たちが走らせていたクルマたちと言えば一度燃料をタンクいっぱいにすると300キロから500キロ走り続けることが出来た。さらに、ハイブリッドのクルマたちは、上手に走ると800キロから1000キロは、無給油で走れるのだ。
ここで思うことだが、競争も数字ももちろん大切と思うけれども、そのクルマが、使い手のニーズをどれだけ充たし、ドライバーが気持ちよく乗りこなせるか、そんなモノサシで見たとき、160キロしか走らないのか、160キロも走るのか、考え方、使い方でこの最新のEVの未来は決まってくる。
折りしも、今朝の新聞には、駅前のコインパーキングに、充電設備の付いたカーシェアステーションが登場とあった。

菅井さんの会社のホームページ: http://www.intercity-jp.com/



◆今月の隆眼−古磯隆生

−水の魔術−

“異空間”の彷徨。移住して一月が経ち、東京・山梨の行ったり来たりの彷徨生活が始まりました。異空間の往来は私の内面に変化を来してきているように感じます。何だか異邦人的心境で、自分を検証する時間がもたらされているようです。私はどこのだれ?
さて、「寂」の空間・白州(北杜市)では五月に入って、山々に囲まれて幾重にも連なる田圃に水が張られ、田植えが始まりました。こんな光景を目にするのは初めてかも知れません。それまで土埃を放っていた田圃に水が張られ、目にする世界は一変しました。それも感覚的には一瞬のうちに。付近一帯はとてつもない透明感をもって輝きだしました。水面は山々を映し出し、空を映し出して行きました。見える山々・空は、映し出された山々・空と渾然一体となった光景を出現させました。何という透明感でしょうか。“大地の目覚め”とはまた違った壮大な鏡の世界の出来事のようでもあります。それはまさに水のなせる「魔術」の世界でした。その世界はまた時間とともにその風景を変化させて行きます。何とも透明感に溢れた幻想的な時間が経過して行きます。その風景にとても不思議な単旋律の響きのようなものを感じています。感覚が限りなく刺激されて行きます。
時間の経過はやがて稲穂を生長させ、この透明感に満ちた光景は消滅していくのでしょう。それは“大地の目覚め”に似た瞬時の出来事のようでもあります。
一年の内のこの時期にのみ現れる透明世界に乾杯!!



◆今月の山中事情45回−榎本久(飯能・宇ぜん亭主)

春の名残があと少しだけ合った吉日、山梨県白州に居を構えられた古磯氏からご招待を受け、お祝いに訪れた。
道すがら古磯宅のイメージをしていた。
白州に通じる国道20号線(甲州街道)の両側は段丘状の田が東に下るように続いていた。丁度田植えの最中だった。昔ならその風景には馬や牛が働いていて、田植えの風情になっていただろうけど、今は畦道では苗を積んだ軽トラックが走り、田の中では田植機が動いている景色になってしまった。そして見逃せないことは、その担い手が皆老人であったことだ。日本中で見られる現在のこの国の農業事情を目にした。少しやりきれない思いの中で、道の両側に初夏の花々が遠々と咲いていたことが心をなごませてくれた。
車が進むにつれて風景は変わってしまった。白州方面は何度か通ったことがあるが、国道沿いのみで、そのバックヤードのことは知らなかった。目印の役場の建物の先を左折し少し入った途端、いきなり広い視界が開き、忽然と田園地帯が現れた。しばし車を止めて眺めていた。この風景はどこかで見たことのある風景だったからだ。以前韓国のある村を訪れた時のそれと重なった。広い農道が突きあたるまで続いていた。一帯には瀟洒な建物やログハウスが点在し、かつ、日本の原風景もそこにあった。その広い農道を車は走り、突き当たって右に曲がる。数十メートル左に黒をベースにした古磯宅が木々のみどりを借景にして在った。
以前からここに生活拠点を築くことは伺っていた。ご自身の長年の構想が余すことなく内包された素晴らしい居住空間をじっくり見せていただいた。そして、訪れる方が誰しもお気に召すこと必定と思うのは、広く長いウッドデッキである。そこに座して前方に目を据えれば、巨大な山塊甲斐駒ヶ岳が否が応でも目前に迫って来て、見ているだけで時の経つのを忘れてしまうほどの威容だ。
田園の中に複合施設が松林の中に溶け込んでいた。温泉もある。高濃度の鉄分と塩分を含む温泉として名高いらしい。古磯氏は家族風呂のように利用しているという。早速利用してみたが、あらゆる病気が治ってしまう気がした。
こう書いて行くうち、古磯氏がここを選んだ理由が少し解った。海だけは無いが、あとは何でもあるロケーション、喧噪のない住環境だからだ。
大穀倉地帯庄内平野で育った私にとってこの目の前の田を見てそう思った。
ノスタルジアを彷彿させられてしまった。