★ Ryu の 目・Ⅱ☆ no.30

◆今月の風 : 話題の提供は鈴木章浩さんです。


場面A
「今日部長が来ているから作業決行しようか。」
「えっ、波が高くて危険です。事故が起こったら大変です!」
「でもねー部長が来てるし。キャリアに傷がつくし・・・」
場面B
水中銃を向けられる。
「環境を壊す気か!!」
「・・・?」
場面C
「処分場建設反対!!」「お前らそれでも人間か!!」
「○○さん、反対派住民怖いから人の壁作ってよ。お宅の会社で。」

土木業界とは悪魔の巣のように言われているのが現状である。談合から始まりダンピング、手抜き工事、環境破壊、税金の無駄遣い。もともと「土木」という単語は前漢の淮南王劉安が学者を集めて編纂させた「淮南子(えなんじ)」という哲学書の中に記載されている『築土構木』(自然の災害から民を救う)という単語から生まれたという説が強いそうだ。なんとも綺麗な4時熟語ではないか。武田信玄徳川家康は土木事業の重要さに早くから気付き英知を集結させ災害を防いできた。金沢兼六園付近の道路建設にあたり付近の地盤掘削を行った際には前田家が建設したと思われる約400年前の杭が発見された。杭設置位置やその剛性等、当時の技術としては驚きを隠せない。
私はそんな技術を大学時代通して学んできた。水・土・コンクリート。物理学を好むものならその素晴らしい技術に圧倒される。しかし現状は・・・。
私は今葛藤している。
技術者としてなのか、人間としてなのかは分からない。
そのことを沖縄県で痛感することとなる。環境保全が最も注目されている県。見渡す限りの大自然。綺麗な海。緑豊かな大地。しかし県は大きな雇用問題を同時に抱えている。10人に1人の割合で土木事業に関わる職に就いている人たちがいる。彼らは自分達の生活のため故郷の環境問題に目をつぶりその日の泡盛を飲むための労働を行う。彼らと現場で過ごすと労働の楽しさと彼らの生き抜く姿に感動を覚え、そして仕事をすることに感謝を覚える。しかし現実は環境を破壊している。環境破壊に反対する人たちは拡声器を片手に日々行動する。技術者として、人として私はどのように対応すればよいのだろうか。
これは沖縄に限ったことではない。ゴミ処分場が自分の家の付近に建設されることは私も嫌だ。しかし実際世の中にゴミは溢れている。事業説明の会場に行くと、施工業者と住民との間で矛盾の議論が繰り返される。技術うんぬんの問題ではない。土木事業において何が支配的なのだろうか。政治?権力?環境破壊は許されることではない。そのための努力を技術者は惜しんではいけない。
しかしながら実際の土木工事にはそれ以外の大きな問題を抱えているような気がする。がむしゃらに建設することも環境破壊に反対することも、どちらも違う気がする。ただ、私はこれからも1人の技術者としてこの問題を抱えながら日々成長していこうと思う。いつか自分の中に結論を導き出せたとき、また「Ryuの目」に投稿させて頂こう。きっともっとましな文章が書けるはずだ!!
最後に「若者の葛藤をそのまま文章にしてごらん」と、こういった機会を与えてくださった古磯様に多大なる感謝をするとともに、またお酒を片手に多いに議論をしたいと思います。そしてこれをお読みになられた諸先輩方から意見を頂ければ幸いかと思います。



◆今月の隆眼−古磯隆生

−白い壁−

前回の続きになりますが、奈良斑鳩の里を散策している時にもう一つ印象に残った風景がありました。畑越しに見えた古い漆喰塗りの蔵です。かつて覚えた感動を甦らせてくれました。
今から35年程前になるでしょうか、大分県臼杵の石仏を見に行った折り、付近で見かけた漆喰塗りの小さな白い土蔵の何とも言えない美しさにとても感動しました。陽を受けたその土蔵は、近づけば確かに土汚れしていましたが、その白い漆喰の美しさはそんな汚れを気にもさせず惹きつけました。今も目に焼き付いています。
“たとえ汚れ、古くなっていようとも白は白、他の色には換えるられない美しさを醸し出す”
私の建築人生における漆喰との初めての出会いでした。その印象は私の中で次第に培養されてゆき、以来、白い壁として幾度となく住宅に登場することになっていきました。
‘白の世界’は我々の日常生活空間では‘図と地’の関係を提供してくれます。つまり興味の在り方によって‘図’にもなれば‘地’にもなるということです。‘地’と見る場合は背景として想定しますので例えばどんな飾り物をしようかとか、どんな絵を掛けようかとかを想像させますが、‘図’と見る場合は白それ自体が主役で、光を介在させて色や材質感を楽しむ事になります。住まいにおける‘白い壁’はそんな存在である訳です。汚れやすいからとの理由で拒むかたが結構いらっしゃいますが、住まいをエンジョイするために意識を変えていただきたいものです。‘たとえ汚れても白は白’ですから、要は白を楽しむかどうかということがポイントです。白い壁は明るく伸びやかな表情を醸し出しますが一方では凛とした静寂に支配された空間をも見せてくれます。