★ Ryu の 目・Ⅱ☆ no.15

◆今月の風 : 話題の提供は空閑重則さんです。<< 絶滅製品たち >>

テレビ朝日の「ニュースステーション」では「絶滅危惧商品」なる企画をときおり実施していた(筆者は「セルロイド」の話で出演したことがある)。 実は「危惧」にとどまらず「絶滅してしまった」商品・技術はこの数十年(団塊世代の青春時代+α)に無数にある。 例えば

1. 計算尺 :「ヘンミ計算尺」は竹という美しい素材と日本人の器用さの組合せから生れたハイテク製品であった。グレードが色々あり、乏しい小遣いからいかほど投資すべきか、筆者は昭和40年代の大学生協で悩んだものである。しかしそれから数年後に四則演算の「ディジタル電卓」(シャープ、キヤノン等)が現われ、さらに数年後には横川ヒューレットパッカードYHP)の「関数電卓」が現れて技術計算の世界が一変した。筆者は1970年頃、YHP電卓を買うのにバイトの稼ぎ3か月分をつぎ込んだ(研究室にはあったのだが、最新型を買わずにいられなかった)。関連する製品に「タイガー計算機」がある。これは昭和40年頃までに理科系の大学に行った人しか知らないであろう。算盤を機械化したようなもので、計算が肉体労働になるのであった。 で、算盤の方はというと絶滅するかと思いきや、子供の脳の発達に良いという説が定着したおかげで、算盤塾は結構はやっているというから皮肉なものである。(この説を流布した算盤関係者は商売の天才!)

2. 製図器具 : 10 cm × 20 cm 程度の宝石箱のようなケースに入った、コンパス・デバイダ・烏口のセット(他に何が入っていたか思い出せない)。 計算尺よりさらに高価で、いくら出すべきか悩んだ。高い品を買うと図学実習で良い点が取れると信じて投資したのだが、実際は使う技術の方がものを言った。例えば烏口は研ぎすぎると紙が切れて、そこから墨がにじむとか、ミスをしたときに剃刀の刃をたわめて墨をすくい取る技術など。 烏口でレタリングをやったのも団塊世代前半が最後ではないだろうか。その後黄色いプラスチックの文字枠を使う製品(名前が思い出せない。誰か教えてください)が普及したと思ったら、すぐに類似の「ロットリング」ブランドに取って代わられた(どちらもドイツ製品)。それがCAM/CAD に取って代わられるまでの市場寿命は15年あっただろうか? 祇園精舎の鐘の声 … は現代文明にこそ当てはまる言葉である。

現在 20代の人に次の物(言葉)を知っているかという調査をしたらどのような結果になるだろうか?七輪 練炭 蚊帳 湯たんぽ SPレコード/LPレコード、 カセットテープ 8ミリ映画 (8ミリビデオではない)ダイヤル式電話機 パンチカード英文タイプライタ (レミントン、スミスコロナ、国産はブラザー。IBMのゴルフボール型もなつかしい)

 
◆今月の隆眼−古磯隆生

−雨−

身近な生活空間を見渡すとき、ハード面での環境整備の出来具合にのみ目を奪われがちですが、快適な暮らしには雨や風といったものへの感応も大切な要素と思われます。まちの中で感じられる四季と同様、その効果には気持ちに潤いを与えてくれるものがあるからです。
兎角、雨は嫌われがちなものです。水害、土砂崩れなど被害を及ぼす雨は新聞の一面を覆いますし、春烟り始めるこの時期は寒さを逆戻りさせる雨でもあります。折角の予定を台無しにしてくれる雨もあります。しかし一転して、新緑或いは紅葉の時期の雨はその葉色を鮮やかに浮き立たせてくれる雨後の楽しみを期待させてくれるものがあります。或いは、でこぼこ道に雲間を見せる雨上がりの水溜まりは少年時代に私の興味を惹きました。
古来日本では‘雨’をどの様に受けとめたのでしょうか。受けとめ方にその国の文化の側面を垣間見ることになります。軒の深い伝統的な建築形式は「雨による腐朽」から“木”を守る手立てとして効果をもちました。結果、深い軒は水平線を強調し、水平な拡がりを意識させることとなり、外部(庭など)との繋がりを指向させる水平に安定した空間形式を提供することになったと思われます。書院建築はその関係を意識的に発展させた形式でしょう。また、直接の雨の効用ではありませんが水琴窟や添水(そうず、或いは鹿威し)の様に水を音に換えて楽しむ粋狂も出現しました。余談ですがイタリアのアッシジ聖フランチェスコ大聖堂に日本より水琴窟が寄贈されたそうです。
私は常々、兎角マイナス要因である雨を住まいの中でエンジョイする仕掛けはないものかと思っているのですが、どなたか面白い話がありましたらお聞かせ下さい。



◆今月の味覚

今月より、食菜のコーナーを設けました。担当は私の長年の友人で、季節料理の店“羽前(うぜん)”の亭主、榎本久氏です。どうぞお楽しみ下さい。


−春風がそぞろ吹いて参りました−

今、八百屋さんを覗くと芹(せり)や三つ葉が根をつけたまま売られています。束ねてありますからその根元を切って、根の部分を一把なら一把分の二把なら二把分の入る容器に入れ、陽のあたる所に置きます。一週間位しますと、柔らかめの葉が七、八センチ位伸びて来ます。もちろんおひたしにするほどの量は採れませんが味噌汁やスープの“浮き身”にする程度なら充分役目を果たします。命あるもの「いたわり」を有効利用をおすすめします。水だけで充分育ちます。三度、四度でも根が腐らなければ可能です。2004.02.18