★ Ryu の 目・Ⅱ☆ no.13

◆今月の風 : お休みです。


◆今月の隆眼−古磯隆生 

  • 素材 -

「柱のきずはおととしの五月五日の…」ご存じ〈背くらべ〉の一節です。柱に刻まれた家族の歴史…住まいを構成する素材が時間の経過を受けとめてくれる姿です。そこに見られる“人と素材との応答”。
 近年、住まいを構成する素材が急激に変化してきました。嘗ての自然を生かした素材は段々と姿を消し、人工の素材が中心の住まいに変化してきました。勿論、自然素材の供給に限界があり、コスト的にも高くつく、等の事情によるものです。がために、ニュースでも時折シックハウスのことが話題になっていますが、人工素材による人体への影響も無視できない状況になってきました。ホルムアルデヒド等を多く発散する素材で囲まれた住環境につきましては機会を改めて取り上げたいと思いますが、今回は“記憶”装置としての住まいにおける素材のあり方を問題にしたいと思います。
 冒頭の一節は昔懐かしい穏やかな住まいの光景を連想させてくれます。嘗ての住まいは素材との応答なしには成立しませんでした。ですから家の手入れは欠かせない仕事であり、それ故に大切に長く使いこなす習慣が身に付いていました。しかし、大量消費大量生産の時代になってからは“使いこなす価値観”は消滅してしまいました。住宅の素材もその対象であり、メンテナンスフリー(手入れをしなくても済む)のかけ声のもと、現代人は“素材”との応答を止めてしまいつつあります。実はそのことが、自分の寄って立っている基盤、環境に対する認識の放棄にもつながりかねない事態だということです。合板製品、ビニール製品、傷の付かない素材の開発…硬い触覚の素材がわれわれの日常生活空間を包み込んでいます…都市で土の道が見当たらなくなってきた環境と似た現象です。