★ Ryu の 目 ☆ no.12

◆今月の隆眼 and ◆通りすがり

<近作紹介…‘入り江’をもつ住宅>

今回は4月に竣工した岡山の住宅を紹介します。
写真をホームページ
http://www.jade.dti.ne.jp/~vivant 
の〈WORKS〉の個人住宅の覧に‘箕島の家’として、
また
http://suteki-house.hoops.ne.jp/space3/teraoka/teraoka.html 
にはT邸として掲載されていますのでご覧下さい。

この住まいの設計にあたっての大切なポイントのひとつについて話してみたいと思います。それは‘気分転換装置としてのアプローチ’の確保でした。若い施主と両親の住まいとしてスタートしましたが、この秋には若夫婦の住まいになります。設計条件としては、家族のみなさんが同じ職場で仕事をしているこの住まいに、外から帰ってきた時、社会の喧噪を断ち切り、‘我が家に帰ってきたんだ’という安堵感を瞬時に覚えることが求められました。心身を癒す器としての住まいへの導入路。限られたスペースに如何に仕掛けられるか…。

 敷地は市街化された住宅街にあり、80坪強の方形に整形された土地です。敷地環境に関して特記するような事項はありません。敷地形状に倣った方形に囲われた空間がこの場所でのこの家族の住まう空間の原型です。この中に、建物と一体化した導入空間…“入り江”
を仕掛けました。道路から敷地の裏にまで貫通する長さおよそ16メートル、巾1間の入り江(峡江)に見立てたトンネル状の空間がそれです。両サイドを身長の倍以上はある高さの壁で囲い、1間毎に梁を架けた箱状の空間です。この中にアプローチ、玄関、光庭をはめ込みました。玄関扉(巾90センチの親子扉)以外は透明ガラスで仕切られていますので、アプローチから玄関を通して光庭まで見通すことが出来ます。天井高が低く押さえられた門をくぐり導入路に足を踏み入れると、周辺への視界は突如遮られ、空にのみ開かれた空間になります。そこでは‘外界と隔絶された感覚’を覚えることになります。そして、ひたすらわが棲まいへ潜入することになります。京都の古い町屋への導入路を想わせる空間と言ったらいいでしょうか。この空間がこの住まいのいわばバックボーンになっていますから、生活すべてがこの空間と絡み合う形で展開されていきます。
住まいの造り方には様々ありますが、これもひとつの住まう空間造りのありかたです。