★ Ryu の 目 ☆ no.9

◆今月の隆眼 = 五感シリーズ…触覚 =

日常生活の中で最も“触覚”を感じる場面はやはり入浴でしょうか。冬場のタイル床の冷たさには身震いしましたが、最近はそんなことも少なくなってきたのでしょう…何しろユニットバスが増えてきましたから。
疲れを癒し、気分の転換を図るそんな場所では、素足に受ける心地よい床材の感触は不可欠な要素です。足裏には様々なツボもあるようで、皮の厚さに関係なくなかなか敏感なところと思われます。それだけに体への刺激情報はかなりのものでしょうから、足に触る床材がどんなものでもいいと言うわけにはいきません。足に柔らかく、滑らず、足裏を適度に刺激してくれる、そんな素材が求められます。
以前、新聞の連載記事を担当していたとき書いたのですが、むくり(起り)のついた敷き瓦は素足に最高の素材でした。むくった部分が土踏まずにぴたりと吸い付くような感触で、今だに忘れられません。その後、高齢者施設の浴室でこれを試してみましたがなかなか好評です…平坦だけが全てではありません。
外部に目を向けてみましょう。私が子供の頃は外で裸足で遊ぶことは日常茶飯事でしたが、今の子供たちはそうではありません。そのせいでしょうか足の裏での感知能力がどうも退化してきているのではないかと心配です。外部床や舗装材が裸足向きではなくなっています。ここが問題です。都会は土の部分が非常に少なくなりました。
砂浜で裸足になるとどんなに解放された気分になるか…。やはり居住環境のバランスが気になります。室内でも、室外でも裸足の生活をもう少し回復させる必要がありそうです。


◆通りすがり = 甦らせる =

30年来の友人に誘われて三重県の大井田に行って来ました。その友人が自ら6年の歳月をかけて甦らせた倉で、その話を肴に、嘗ての同僚3人で旧交を温めようとの企てです。
およそ100戸くらいの村のほぼ中央にあるこの倉は、祖父によって90年程前に建てられ、この数十年は放置されていたとのことでした。写真で見る限り屋根の損傷がひどく、雨漏りによる梁・柱・壁の腐朽で廃屋同然だったことが窺われました。
この修復を決意した当人は東京に住んでいますので、月1回の割合で当地に通い、みずから不慣れな大工仕事に挑戦することになったのです。何らの技も持ち合わせない人間が、しかも遠隔の地から通って倉の修復に挑戦するというこの希有な無謀さに脱帽し、感動すら覚えました。確かに技術は稚拙でした。しかし、この無謀な挑戦に共感する仲間を得て一生懸命、無心に作ったまさに手作りの一作は、本人の目論見の50パーセント程が達成されつつあると言ったところでしょうか、完成のあかつきには、村の人々が楽しく利用している様を描いていたのが印象的でした。この功利的時世において胸のすくような傑作です。