★ Ryu の 目 ☆ no.5

◆今月の隆眼 = 光・明・陰・闇 =

20年ほど前になりますが、京都の書院建築をいくつかまとめて見に行った折、大津市園城寺の光浄院客殿を訪ねた時のことです。この寺院は書院建築の初期の遺構として建築的に大変意味のあるもので、私も非常に啓発された建物のひとつです。このとき確か三度目だったと思います。午後の2時頃だったでしょうか、案内の僧侶に従って静まり返った客殿に通されました。昼なお薄暗い部屋には白熱灯の裸電球が灯されました…と、金碧濃彩の障壁画が煌々と照らし出されてきましたが、いつもながらこの書院の簡潔な造りと極彩色の取り合わせに違和感を覚えずにはいられませんでした。たまたま僧侶の退出の時、照明の灯りを消してもらったのですが、その時初めてこの金碧濃彩のわけがわかりました。独り正座して静寂の中、障子を通して差し込むわずかな光を得た障壁画の金碧が鈍く浮き上がってきたではありませんか。先程まで感じていた違和感は最早ありません。造りと障壁画が混然一体となった空間が出現していました。このときの障壁画の奥深い味わいはとても印象に残っています。おそらく、夜は闇のなかで短檠(たんけい)や蝋燭の灯りが同じようにぼんやりと照らし出すのでしょう。
転じて現代住宅の多くは部屋の隅々まで明々と蛍光灯で照らし出しています。そこには住空間の奥行きが感じられません。高齢者には明るさは必要ですが、生活にリズムが必要なように、明るさにも強弱、明暗(陰)のリズムがあってこそ、住空間に抑揚、奥行きが生まれてくるものです。日本的感性の“陰”の世界の味わいを散歩してみませんか?谷崎潤一郎の《陰影礼賛》を一読されることをお奨めします。


◆通りすがり = 福祉住環境コーディネーター

福祉住環境コーディネーターという言葉を聞かれたことがありますでしょうか?昨今の資格試験流行りの中で一昨年から始まった資格ですが関係者には注目されています。高齢者用に住宅改造する場合のいわばケアマネージャー的な立場です。
少子高齢化社会に入った日本ではお年寄りの介護の基本は在宅での介護です。‘住み慣れた住まいで暮らす’これが考え方の根底にあります。そこで問題となってきたのが、住まいが高齢者その人にとって住みやすいものであるかどうかという点です。身体機能、視覚機能などの変化や衰えにより、それまで住み慣れた住まいが知らず知らずのうちに、実は住み難いものになってきている…そのことに気付かない…ありがちなことです。 
在宅介護を支えるにはさまざまな役割や支援体制が必要です。しかし、いくつかの専門職が関係してはいるものの連携がうまくいかず、高齢者にとって必ずしもいい結果を生んでいるとは限らないことが生じてきました。そこで、医療・保険・福祉・住環境の領域全般にわたって総合的な知識を持ち、実務として住環境の整備に対応出来る能力を備えた人材が必要だというわけです。それが福祉住環境コーディネーターですが、その資格が現実に有効に働きだしているかというと‘?’がつきます。この機能が社会的に定着するには、ケアマネージャーのように明確にポジションを与えるか、または、関連する専門職が当然修めるべき科目として課すかのどちらかでしょう。
高齢者の住まい作りで忘れてはならない視点は、〈バリアフリーであればいい〉ではなく、普通の人が考えてると同じように、〈生活を楽しむ住まい〉が前提であるということです。