★ Ryu の 目・Ⅱ☆ no.88

この「Ryuの目」の発信を始めて100回目を迎えました。
月日の経つのは早いものです。
さて、花見は如何でしたでしょうか?白州はこれからです。
今年も樹齢二千年と言われる武川・実相寺の神代桜エドヒガン)が見事に花を咲かせました。添付写真をご覧下さい。

では《Ryuの目・Ⅱ−no.88》をお楽しみ下さい。


◆今月の風 : 話題の提供はお馴染み岸本雄二さんです。

村上春樹のこと−

村上春樹は短編の天才で、長編も実は短編を幾つも繋げて体裁を長編のようにしたものと考えていた。1Q84を読むまでは。まだ2巻までしか刊行されていない1Q84の結論を急ぐつもりはないが、書き下ろし長編などと宣伝している出版社の表現は明らかに的を外している。彼の短い区切りのよい文章、逆手をいくような発想法で、しかも誰にでも共感を与えてしまえるような内容は、長短の問題ではなく、人間の本質を把握した、ユーモア溢れるすがすがしい村上文学というべきものである。
彼は、人の痛いところ、恥ずかしい部分、うれしく誇りに思える感情、などを、スパッと突いて、自分で泣いたり笑ったり悩んだりしているかのような書き方をする。その意表をついた例えや、晴れ晴れとした表現は、私がもっとも感銘を受けるところである。アメリカ的ともいえる発想法からでてくる創造力は、私の度肝を抜くことしばしばでだ。勿論英語には訳しやすいであろうし、他の外国語にも同様であると思う。恐らく、彼は、アメリカの編集者とのやりとりを、言い換えれば、共同作業(コラボレーション)をこよなく楽しんでいるように見える。双方ともに可能性について、徹底的に前向きだから、ともいえる。

先日春樹のランニングについてのエッセイ集を読んだ。ここで、彼の本音を読み取った、と思った。走ること自体に目的を感じ、走ることによって生きる楽しさや仕事へのチャレンジ、生活のリズムを見つけ、毎日達成感を経験していく、だからランニングは止められないのである。私との共通項だ。まさに共感できる作家である。彼は、ニューヨーク・マラソンや100キロレースなどを、まるで実況中継にように、詳細にレポートしているが、そんなに細かく憶えている筈がないので、やはり作家だなあ、と思った。私には到底できない芸当だ。あのぐらいの物語性を付けて書くと、どれが、事実でどこが脚色だか自分でも定かでなくなると思う。それなら、私にもできるかもしれない、と思えてくるから不思議だ。
村上春樹はジャズ・クラブを経営していたので、実によくジャズのことを知っている。クラシック音楽についても精通していて、作曲家から演奏者にいたるまで、少なくともレコードのジャケットに書いてあることぐらいは全部暗記(?)しているようだ。しかし演歌については興味は無いようだ。

どんなに性質がさっぱりしている自信家でも、大きな決心をするときなどには、幾分優柔不断になることがあるはずだ。そういう人についても春樹の心理描写は普通以上に回りくどく書き、心の揺れ動くさまをよく表していて、共感が持てる。私は、このように、仕事の合間にエッセイを書きまくっているが、村上春樹の小説は大いに励みになっている。彼の天才さは、凡才のように見える天才なのである。だから多くの読者に共鳴するのだろう。少なくとも、彼は、私の刺激剤的役割をしてくれているありがたい作家である。
2010年2月15日 クレムソンにて


◆今月の隆眼−古磯隆生

−住処探し・その8−

2007年5月になって、地元(白州町)の不動産屋さん(南ア観光開発)にいくつかの物件を案内してもらうことになりました。東京を朝8時ころ出発し、一路須玉へ。天気も良く、この時は白州の友人も一緒に回ってくれました。
三カ所の、宅地用に整地された物件を紹介されました。
一つ目は大武川という川に面する敷地で、広さは300坪程だったでしょうか。接道道路の向かい側には市営住宅が建っています。土手より低くなっていて、樹木も無く吹きさらしの土地です。二つ目はこれも接道はよく、方形に整地された土地で、樹木はそこそこありますが周りにあまり人家は見あたりません。特徴のあまり無い土地でした。三つ目は不成形の土地で、境界が崖地になっています。近くに古民家がありますが落ち着きが感じられません。
三件とも今ひとつ納得できません。一番大きな点は周りの環境でした。宅地用に整備されており、確かに周りには樹木もありますが、何よりも“自然さ”がありません。自然な環境が無ければ単なる田舎の暮らしに過ぎなくなり、「自然に囲まれた田舎暮らし」とは行きません。イメージが違う。こちらのイメージをうまく伝えられていなかったせいもあるでしょう、納得していない雰囲気は不動産屋さんにも伝わった様で、最後に「農地ですぐに売買は出来ないので…、急がないのであれば」との注釈付きで、表に出していない土地を見せてくれることになりました。
その土地は集落のある里の端にあり、別荘地へ繋がっていくロケーションに位置していました(里の集落と別荘地の中間的位置と言えばいいでしょうか)。土地は畑地で、東にゆるやかに下がる東南の角地であり、舗装された道路にも接して(東側)いました。北と西側は隣地の樹木に覆われ、南に鳳凰三山を仰ぎ、南西に甲斐駒ヶ岳が聳えています。そしてすぐ近くになかなかいい温泉まである。
「これだっ!」と直感しました。人家もまばらで、自然が残っている、接道もいい。日当たりもよく、明るく開放感がある。電柱も設営されているから後は水道とインターネット環境の問題がクリアーできれば基本的にはいい。畑地(農地)の売買に必要な農業委員会の許可は時間の問題で解決しそうだとのこと。表に出ていない物件だから今度は時間をかけてゆっくり検討できる。
つづく



◆今月の山中事情−榎本久(飯能・宇ぜん亭主)
 
4月3日、東大駒場キャンパス内で宇ぜんの花見会が催されました。30名位の方が集まり、満開の桜を堪能しました。榎本さんも元気な顔を見せていました。ゴボウの煮付け、鯖の味噌煮をご馳走になりました。
偶然、10年来音沙汰無しだった常連客にも会えるハプニングが催しを一層盛り上げてくれました。
山中事情は今月もお休みです。