★ Ryu の 目・Ⅱ☆ no.53

ゴールデンウィークは如何お過ごしでしたでしょうか。
私は一日だけ秩父の方に出掛け、今月の山中事情でおなじみの「飯能・宇ぜん」で食事をしてきました。
ところでお知らせがあります。この「宇ぜん」さんがテレビに出ます。まだ宇ぜんに行かれたことのない方はどんな顔の亭主か覗いてみてください。
5月19日(土)午前9時30分からの日本テレビ「ぶらり途中下車」です。

では《Ryuの目・Ⅱ−no.53》をお楽しみ下さい。


◆今月の風 : 話題の提供は 尾澤 肇 さんです。
        写真も貼付してありますのでご覧下さい。

3月中旬、南フランスのロマネスクの修道院、教会の美術を巡るツアーに行ってまいりました。東京より一路リヨンに飛びそこからバスで主にローヌ河左岸の修道院、寺院を巡るツアーです。(主催、朝日カルチャーセンター、池田健二上智大講師同行)。

プロヴァンスといっても、地理的、歴史的に見ると一筋縄ではいきません。ケルトからローマの支配を経て民族大移動の波があり、一方でキリスト教布教の進展と、先住民の宗教からの影響、さらにキリスト教会内部の様々な改革の波が縦横に織りあわされ、お互いに影響しあい多様な様式となって生まれたのがロマネスク様式だと思います。ですから、時としてキリスト教の枠をはみ出してしまった彫刻に出合ったりするのもロマネスクの魅力の一つです。そもそも「ロマネスク」なる言葉は、「ローマ風」を意味するフランス語で19世紀の歴史家が11世紀半ばから、12世紀に建てられた石造り教会を古代ローマには及ばないと若干さげすんで呼んで使い出した言葉のようです。私には、専門的なことは分かりませんが、今回訪れた、30数箇所の中から、気に入ったところを何箇所か紹介したいと思います。

ロマネスクの修道院、寺院は多々ありますが
 ①完全な廃墟、または廃墟ではあるが保全されている。
 ②なんと個人所有となっている。(勿論史跡の登録はされている)
 ③現在も使われている。それどころか、村全体がロマネスク時代の所もある。
この三つに分類してみました。

その中から
① ニンフの谷(Val des nymphes)…名前がまず気に入りました。

リヨンからローヌ河に沿って南下するとラ・ギャル・タデマールというロマネスク時代からある小さな村がありますが、そこを抜けしばらく行くと「ニンフの谷」と呼ばれるところに着きます。ニンフ即ち妖精です。妖精が住んでいる谷ということでしょう。アイルランドを旅行された経験のある方はご存知でしょうが、かの地では、今でも「妖精が横切る、注意」という道路標識があって感心させられますが、このニンフの谷もかつては、先住民族の祭祀に使う重要な場所であったとおもわれます。キリスト教を布教して行く過程で先住民の祭祀を行う場所の上に教会が建てられていっております。フランス各地には黒マリアという彫刻がかなりのこされており、それも先住民の信仰を保存するものですし、またケルト民族は泉を非常に大切にし、そのそばに祭祀の施設を作ったようです。今も湧き出ている泉の岩壁の下からは「ニンフの母」にささげた石碑が発見されたとか…。

この教会の名前は「ノートル・ダーム」。聖母にささげられたもの。泉のそばに立てられた小さな教会で今は使われておりません。単身廊の教会ですが、中に入ると以外に天井が高く落ち着いた感じがします。とても素晴らしいたたずまいで、我々がドドット押しかけたようなことになってしまいましたが、自転車のツーリングの途中に立ち寄った人、ひたすら思索にふけっている哲学者風の方がいらっしゃいました。人気が無く忘れられたようなところで、ホントに今でも妖精が現れても不思議ではありません。周りの木々が芽吹いてくれば一段と素晴らしい景色になっているはずです。こんなところで一日過ごせば、誰でも詩的な気分に浸れる事請け合いです。

写真1:教会ファサード
写真2:ニンフの泉
写真3:教会内部
写真4:教会後陣
  
・話題を提供して下さった尾澤さんは以前にも話題提供していただきました。
 海外での勤務を含め、世界の各地を見て回られており、豊富な知識で読者
 を楽しませてくださいます。三回の連載になります。


◆今月の隆眼−古磯隆生

−六本木の二つの再開発−

その2−東京ミッドタウン

総延べ床面積が57万㎡にも及び、ホテル、住居、オフィス、商業・文化施設、病院、公園などから成る巨大な複合施設です。三井不動産をメインにした企業連合の開発で、全体計画(国際コンペ)はアメリカの大手設計組織のSOM、建築設計は日本の設計組織最大手の日建設計です。3月25日の内覧会に行って来ました。
全体は主に3つのゾーン…ガレリア、プラザ、ガーデン…から構成されています。<ガレリア>と名付けられたゾーンは4層の吹き抜け空間を持つショッピングエリアでサントリー美術館もその中にあります。<プラザ>はカフェなどが並ぶ憩う空間の設定、そして、<ガーデン>は以前からあった檜町公園と一体化したグリーンゾーン。これらに超高層のオフィスやホテル、住居が配されています。
この種の開発は、そこにどの様な複合機能を持たせるかがポイントになりますが、その意味で、首都の都心部の再開発ならではの(良いも悪いも)内容と思われます。建築のデザイン自体には特筆するようなものはありませんでした。大手設計組織の手になるものですからそれなりの設計です。そこに作家(建築家)の自己主張なり哲学(世界との対峙の仕方?)を強烈に見ることは出来ないのが残念です。北九州市にある個性豊かな複合施設「リヴァーウォーク北九州」と対比すると一目瞭然です。
ただし、都心に、元からある檜町公園と一体化させた大きなグリーンエリアを成立させたことは評価できると思います。私個人が一番印象に残ったのは吹き抜けをもつ<ガレリア>の空間軸に相対するように設けられた芝生の屋外広場で、そこに配置されたフロリアン・クラール作の「Fragment No.5-Caverna lunaris-」と題された彫刻がまたぴったりでした。この施設のスケールに負けない堂々としたフォルムが実にマッチしていると感じました。
確かにこのような施設は一部都心での都市生活のエンジョイや、ビジネスサイドからの要望(欲望)であるのかも知れませんが、内覧会後、「ふと立ち止まって、うん?これで良いのか?日本は」と考えたくなりました。人の欲望の産物のように思えます。
都心部の超高層住宅開発を始め、ディベロッパーの開発競争の場であり、そこに都市全体をイメージするスタンスが見えないからです。

東京ミッドタウン: http://www.tokyo-midtown.com/jp/index.html



◆今月の山中事情−榎本久(飯能・宇ぜん亭主)

このコーナーを担当して二十回目になる。とりとめのないことを書き、皆様に読んでいただいていると思うと、どこか後ろめたい気持ちになってしまいます。古磯さんとは誠に永い間柄とは言え、歩んで来た「所」や「道」があまりに違いますが、彼とは昔から、酒席になると、嗜好や世に対する考えが何故か一致して、何時間も、それも解決など出来ない話を口角泡を飛ばして話し合うことが常でした。そして、古磯さんがお連れのご友人も又いつしか私の友人のごとくなり、そのお陰で私は少しずつ「大人」になっていったと思っています。

では今月の山中事情1:

時折ダンプの通る音が変に都会並みの騒音を呈する。標高三〇〇メートル近くの山の中で「山中事情」を書き続けてきた。夜ともなれば漆黒の闇の中、おそらくは小動物が闊歩しているとは思うが、出会ったことはない。耳が研ぎ澄まされ、異様な音にはすぐ反応してしまうようになった。彼等は闇の中を縫って我が家のあたりを物色しているからだ。残飯等の生ゴミはおろか、食材等を不用意に出しておくとあらかた食べられてしまう。そういう所で暮らして一年半が過ぎた。しかし、自然の中での生活をエンジョイしていますなどとはとても
言えないのが、今の私の偽らざる心境です。なぜなら、自然を勉強もせず、対処の方便も持たずに来てしまったからです。都会のそれと違うのは、仕事以外が何かと忙しいことです。生まれは田舎でも、東京生活四十年は簡単に忘れる訳には参りません。
私の生き様をたまたま日本テレビで紹介されることになりました。5月19日朝9時30分よりの「ぶらり途中下車」を、この場をお借りして紹介させて頂きます。皆様お時間がございましたらご覧下さいますようお願い致します。
尚、お見落としの場合は日本テレビのホームページでもご覧いただけます。
http://www.ntv.co.jp/burari/


さらに今月の山中事情2:

ゴールデンウィークが終わったと思ったら雨になった。その雨上がりの朝、何気なく目前の山を見た。少し様子が違う。その長さ約20メートル、巾10メートルに渡って、あたかも紫の滝のような樹間になっている。藤の花の乱舞だ。
前日の雨が一気花を開かせたに違いない。去年も、一昨年も記憶にない光景なので、おそらくは、今年は「当たり年」になったのであろうか。自然の見事な演出に、私は一人縁側で喝采の拍手をした。それにしてももったいない。ゴールデンウィーク中に通った何万台の車に乗っていた人に見せたかった。
そしてその隣に大きな葉をつけた朴(ほう)の木がある。肉眼でも解るほど花も大きい。白い花がみどり色だらけの中にちらちら見え始めた。このあたりでは本当にたいしたことのない「森」だが、私には格好の借景として春夏秋冬、重宝している。